サーモグラフィーカメラの選び方|設備点検・電気診断・DIYで必要な解像度と温度範囲

FLIR C5 コンパクトサーモグラフィカメラ(単体・ポケット型プロ、MSX)
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メナ

どうも、メナ(@menachite)です。今回は「サーモグラフィーカメラを買いたいが、何を基準に選べばいいのか分からない」という相談に答えます。

この記事は、電気工事の竣工検査・定期点検を担当する電気工事士、設備保全の定期巡回を行う担当者、住宅の断熱欠損や雨漏りをDIYで調べたい人向けです。機種の性能一覧をいきなり見比べる前に、まず「何を、どのくらいの距離から、何℃まで把握したいのか」という作業条件を先に決めれば、必要な解像度・温度分解能(NETD)・測定温度範囲はほぼ一意に絞り込めます。

この記事で判定できるのは「その作業条件に対してどのスペックが必要か」「その条件に該当する具体的な機種はどれか」の2点です。機種の性能を並べて終わりにするのではなく、メーカー公式仕様と該当機種の実在確認情報にもとづいて、条件からスペック、スペックから機種へ一本道で判定する構成にしています。機種より先に、作業条件を決めてください。

目次

結論:読者の条件→必要スペック→該当機種 早見表

「何を見たいか」「どのくらいの距離から見るか」「何℃まで把握したいか」の3条件が決まれば、必要な解像度・温度分解能(NETD)・測定温度範囲と、おおよその価格帯・該当機種はほぼ絞り込めます。

見たい対象典型距離必要温度範囲必要スペック価格帯該当機種
盤内端子の数mmの過熱点(電気工事士の竣工・定期点検)0.3〜1m常温〜150℃解像度160×192以上・NETD 40mK以下・最小焦点距離0.3m以下・放射率補正可〜3万円TOPDON TC001
モーター/ベアリング等の面(設備保全の定期巡回)0.5〜2m常温〜150℃解像度160×120〜256×192・NETD 40〜70mK・視野角40°以上で広い面を一度に走査3万〜10万円HIKMICRO Mini2 V2 / B10 / B20 / Pocket2
住宅の断熱欠損・雨漏り・床暖房配管(DIY・リフォーム診断)1〜5m常温(0〜40℃程度)だが微小温度差の検出が主眼NETD 40mK以下・MSXやエッジ強調機能で輪郭と温度差を重ねて判読3万〜10万円(高精度なら10万円台)HIKMICRO Pocket2 / FLIR C5
電気設備の過熱診断・竣工検査報告書を作成したい0.1〜2m〜400℃以上測定温度範囲-20〜400℃以上・放射率設定可・反射温度補正可・レポート作成アプリ連携10万円台〜FLIR C5
モーター/炉・溶接・高温配管など400℃超の産業設備保全0.3〜数m〜550℃以上測定温度範囲-20〜550℃・NETD 60mK以下・レンズ交換や詳細解析ソフト対応10万円台後半〜FLIR E6 Pro

早見表の使い方:判定例で確認する

判定例1:電気工事士が盤内の端子1本の過熱を点検したい

対象は数mm単位の端子で、距離は盤から0.3〜1m程度、温度は常温〜150℃程度です。早見表の条件に当てはめると、必要スペックは解像度160×192以上・NETD 40mK以下・最小焦点距離0.3m以下・放射率補正可となり、価格帯は〜3万円。この条件に該当するのがTOPDON TC001(解像度256×192)です。近距離・ピンポイントの発熱点確認が中心であれば、このクラスで要件を満たせます。

判定例2:設備保全担当者がモーターやベアリングを定期巡回で見たい

対象は面(モーターやベアリングの表面)で、距離は0.5〜2m、視野角40°以上で広い面を一度に走査できることが条件です。この条件ではHIKMICRO Mini2 V2・B10・B20・Pocket2がいずれも候補になります。この4機種のどれを選ぶかは、後述する「スマホ接続型か単体機か」という運用スタイルの軸で分かれます。

判定例3:住宅の断熱欠損や雨漏りをDIYで調べたい

室温は常温(0〜40℃程度)で、測定の主眼は特定の温度値そのものではなく欠損部と健全部の「微小な温度差」です。早見表の条件ではNETD 40mK以下が目安になり、HIKMICRO Pocket2・FLIR C5が該当します。価格を抑えたい場合はPocket2、より精密な判読やレポート作成まで見据える場合はFLIR C5という住み分けになります。

スペックを1つずつ、用途に変換する

① 解像度とFOV(視野角):遠くの小さな発熱点を見逃さないために

メナ

解像度は「大きければ安心」ではなく、見たい対象までの距離で必要な値が変わります。近距離のピンポイント点検なら256×192クラスで十分です。

「盤内の端子1本の過熱を2m先から見たい」という条件では、視野角(FOV)と最小検出サイズ(IFOV)の計算が必要になります。解像度が低いと、遠くの小さな発熱点が1ピクセルに収まらず「見えているのに温度が正しく出ない」状態になります。目安として解像度160×120以上、できれば256×192以上を選んでください。

解像度が不足すると、小さな発熱点を見つけられない・温度を読み違える、という失敗につながります。逆に必要以上の解像度にこだわると、早見表の価格帯が示すとおり10万円台以降まで費用が上がります。近距離・ピンポイントの点検が中心なら、256×192クラスで十分に要件を満たせます。

② 放射率補正・反射温度補正:「何℃まで測れるか」より大事な条件

メナ

電気設備の点検では、測定温度範囲の広さより、放射率と反射温度をその場で設定できるかどうかの方が実務では重要です。

電気設備の過熱を判定したい場合、注目すべきは「何℃まで測れるか」ではなく「上限温度を手動で設定し、放射率も設定できるか」です。日本アビオニクスの公式解説によれば、「放射率とは、物体が熱放射で放出する光エネルギーを同温の黒体が放出するエネルギーを1とした時の比率のことです」「正しい温度測定には、測定値の放射率補正が必要になります」とされています。同解説の参考値では黒体塗料0.95〜0.98、酸化した鋼0.80〜0.98、みがいた銅0.018〜0.07、人体の皮膚0.98と、材質によって大きく異なります。

測定温度範囲が広くても、放射率補正・反射温度補正に対応していない機種は数値を鵜呑みにできません。金属面は放射率が低く、反射の影響で見た目の温度と実温度がずれるためです。この機能が不足すると「数値は出るが信用できない」状態になり、過剰に高機能な機種を選ぶとレポート作成アプリ連携まで含めて10万円台以上の価格帯になります(早見表のFLIR C5がこの代表です)。

③ NETD(温度分解能):微小な温度差を見分けられるか

メナ

断熱欠損のような微小な温度差を見分けたい場合は、NETDの数値が小さい機種を選んでください。

「断熱欠損を見たい」という条件では、欠損部と健全部の温度差は数℃以内のことが多く、NETD(温度分解能)の数値が小さい機種でないと、その差が画面上で潰れて見えなくなります。NETD 40mK以下が実務の目安です。NETDが不足すると微小な温度差そのものが見分けられず、逆にNETDが小さい(高性能な)機種ほど価格帯は上がる傾向にあります。

④ スマホ接続型か単体機か:現場の運用スタイルで分かれる

メナ

とりあえず温度分布を見える化したい段階ではスマホ接続型で十分ですが、毎日何十箇所も回るなら単体機への切り替えを検討してください。

スマホ接続型(HIKMICRO Mini2 V2・TOPDON TC001)は本体が小さく常時携帯しやすい反面、バッテリーはスマホ側に依存し、長時間の連続巡回や片手がふさがる高所作業では、画面・バッテリーを内蔵した単体機(ハンディ型)の方が扱いやすくなります。「とりあえず温度分布を見える化したい」段階はスマホ接続型で十分ですが、「報告書を作る」「毎日何十箇所も回る」段階になったら単体機へ切り替えるのが実務的な判断です。

条件別の該当機種

スマホ接続型:とりあえず温度分布を見える化したい

ディスプレイを持たず、スマホに装着して使うタイプです。価格を抑えつつ温度分布を画面で確認できるのが特長で、判定例1・2の入口として検討できます。

HIKMICRO Mini2 V2は赤外線解像度256×192、SuperIR、ビデオ録画対応、フレームレート25Hz(正規品ページ記載)。iOS/Android双方に対応します。

HIKMICRO Mini2 V2 サーモグラフィーカメラ外観

モーターやベアリング等の面を定期巡回で確認する用途に向く機種です。

iOS/Androidいずれの端末にも装着できるため、既存のスマホをそのまま流用できるのも導入のしやすさにつながります。


TOPDON TC001はAndroid(Type-C)専用で、赤外線解像度256×192です(早見表記載のスペック)。

TOPDON TC001 本体・パッケージ

判定例1のような盤内端子1本の過熱点検のように、近距離・ピンポイントの発熱点確認に向く価格帯〜3万円の機種です。

Android専用機のため、iOS端末しか持っていない場合はHIKMICRO Mini2 V2のような両対応機種を選んでください。


単体・ハンディ型:設備保全の定期巡回で使う

画面とバッテリーを本体に内蔵し、スマホに依存しないタイプです。長時間の連続巡回や、片手がふさがる高所作業にも向きます。

HIKMICRO B10は256×192 IR解像度・2MP可視光カメラ搭載・25Hzフレームレート・3.2インチLCDスクリーン・NETD 40mK未満・測定温度範囲-20〜550℃(正規品ページ記載)の入門ハンディ型です。

HIKMICRO B10 正面・背面

単体機の入門機として、スマホ接続型から切り替える最初の候補になります。

HIKMICRO B10 斜め構図

HIKMICRO B20は256×192画素の赤外線熱画像・2MP可視光カメラ・Wi-Fi機能・熱画像キャプチャー頻度25Hz(正規品ページ記載)の標準ハンディ型で、B10より上位の位置づけです。

HIKMICRO B20 正面・スマホ連携UI

Wi-Fi機能によりスマホへのデータ転送がしやすく、巡回結果をその場で共有したい場合に向きます。

HIKMICRO B20 斜め構図

単体・タッチパネル上位:断熱欠損のような微小な温度差を判読したい

HIKMICRO Pocket2は公式仕様で赤外線解像度256×192(49,152pixels)、NETD 40mK未満(25°C・F#1.0時)、温度測定範囲-20〜400℃、FOV 50°×37.2°、フレームレート25Hzです。

HIKMICRO Pocket2 前面・背面

NETDが40mK未満と小さいため、判定例3のような断熱欠損・雨漏りの微小な温度差の判読に向きます。

HIKMICRO Pocket2 背面クローズアップ

タッチスクリーン操作のため、巡回先でその場で画像を見返しながら確認する用途にも向きます。


プロ用・MSX搭載:電気設備の過熱診断・報告書作成まで行いたい

FLIR C5はFLIR公式仕様で160×120(19,200 pixels)の熱画像センサー、Thermal Sensitivity(NETD)70mK未満、測定温度範囲-20〜400℃、最小焦点距離は熱画像0.1m・MSX時0.3m、輪郭を重ねて表示するMSX機能を搭載しています。

FLIR C5 外観

放射率設定・反射温度補正・Wi-Fi・FLIR Igniteクラウド連携にも対応し、判定例3・早見表の電気設備過熱診断・竣工検査報告書作成の条件に該当します。


プロ用・高温対応:400℃超の産業設備を扱いたい

FLIR E6 Proは正規品ページ記載で43,200画素(240×180相当)、測定温度範囲は前身機FLIR E6-XTの公式仕様(-20〜550℃)と同水準の550℃級として扱えます。

FLIR E6 Pro 正面外観

モーター・炉・溶接・高温配管など400℃超の産業設備保全を想定した機種で、詳細なNETD値は機種固有の公式データが確認できていないため断定しません。

FLIR E6 Pro レンズ部

価格帯は本記事で紹介する7機種の中で最も高く、400℃超の高温対応が明確に必要な場合に検討する機種です。


買う前に確認しておきたいこと

放射率は対象の材質で大きく変わる

同じ温度の物体でも、材質によって放射率が大きく異なるため、見た目の温度表示と実温度がずれます。日本アビオニクスの公式解説(前述)のとおり、黒体塗料0.95〜0.98に対しみがいた銅は0.018〜0.07と、金属のみがいた面は放射率が低く、低い温度として表示されやすい性質があります。放射率・反射温度を補正できる機能の有無は、電気設備のように金属面を測定する用途では特に確認しておきたいポイントです。

購入可否を確認する

本記事で紹介した7機種はいずれも実在確認済みで、入荷までに多少時間がかかる商品はあっても、購入可能な状態の商品のみを掲載しています。価格は変動するため、購入前に各商品ページで最新の価格・在庫状況を確認してください。

アクセサリーとして検討しておきたいもの

予備バッテリーと記録用SDカード

サーモグラフィーカメラの多くは撮影・録画した画像を本体やスマホ側のストレージに記録します。点検対象が多く1日がかりで巡回する場合は、予備バッテリーや記録用のSDカード(microSD等)を用意しておくと、撮影の途中でストレージやバッテリーが尽きる心配を減らせます。対応規格は使用する機種の仕様欄で確認してください。

よくある質問

Q. 安いスマホ接続型と高いハンディ型、何が違いますか?

A. スマホ接続型は本体が小さく常時携帯しやすい反面、バッテリーをスマホ側に依存します。単体機(ハンディ型)は画面・バッテリーを内蔵するため、長時間の連続巡回や片手がふさがる高所作業に向きます。「とりあえず見える化したい」段階はスマホ接続型、「報告書を作る」「毎日何十箇所も回る」段階は単体機、という切り分けが目安になります。

Q. 断熱欠損を見るのに、どれくらいの温度分解能(NETD)が必要ですか?

A. 欠損部と健全部の温度差は数℃以内のことが多いため、NETD 40mK以下の機種が実務の目安です。NETDが大きい(数値が高い)機種では、微小な温度差が画面上で潰れて見えなくなります。

Q. 電気設備の点検で、解像度以外に一番確認すべき機能は何ですか?

A. 放射率補正・反射温度補正に対応しているかどうかです。測定温度範囲が広くても、この補正ができない機種は、金属面の反射の影響で実温度と表示温度がずれやすく、数値をそのまま信用できません。

まとめ

サーモグラフィーカメラ選びは、機種の性能一覧から始めるのではなく、「何を」「どのくらいの距離から」「何℃まで」見たいのかという作業条件を先に決めることから始まります。条件が決まれば、必要な解像度・NETD・測定温度範囲、そして該当する機種はほぼ一意に絞り込めます。

「機種より先に、作業条件を決める」。これだけを覚えておけば、サーモグラフィーカメラ選びで失敗する確率は大きく下がります。

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