「機械の異常をどう発見するか」——本記事は、測定器のおすすめ選びではなく、まず何の異常をどう捉えるかを決めるところから始めます。壊れる前に見つけたい異常は、熱い・振動する・回転がおかしい・音がおかしい・電気的におかしいの5種類に大きく分けられ、それぞれ疑うべき原因と測定方法が対応しています。
結論早見表① 症状×疑う原因→測定方法・測定器
| 症状 | 疑うべき原因(代表例) | 測定方法 | 測定器カテゴリ |
|---|---|---|---|
| 熱い | 過負荷/絶縁劣化/接続部の緩み/潤滑不足/冷却不良 | 非接触で面をスクリーニング→怪しい箇所を接触式で確定 | サーモグラフィ・放射温度計(非接触)、熱電対温度計(接触) |
| 振動する | 軸受摩耗/アンバランス/芯ずれ/ゆるみ/共振 | 非回転部で広帯域振動速度(mm/s)を測定し評価ゾーンと照合 | ハンディ振動計 |
| 回転がおかしい | 回転数のずれ/ベルト滑り/負荷変動/制御異常 | 反射マークを貼り、レーザー光で回転数(r/min)を測定 | 非接触回転計(レーザー式タコメーター) |
| 音がおかしい | 軸受の初期損傷/歯車摩耗/エア漏れ/ゆるみによる異音 | 可聴音はdBで、高周波の異音は超音波で検知 | 騒音計、超音波リークディテクタ |
| 電気的におかしい | 絶縁劣化(漏電)/相間の負荷不平衡/接続部の緩み | 停電時は絶縁抵抗、稼働中は電流値(相間バランス)を測定 | 絶縁抵抗計(メガー)、クランプメーター |
結論早見表② 測定器別の向き不向き
同じ「測る」でも、非接触でスクリーニングに向くものと、接触させて確定値を測るもの、記録・トレンド管理に向くものは別物です。価格は本文中に数値を出さず「手頃/中位/高価」の3段階で示しています。
| 測定器 | 非接触の可否 | 記録/トレンド | 価格帯 | 習得難易度 |
|---|---|---|---|---|
| 放射温度計(非接触・点) | ○ | 単発中心(一部ロガー付き) | 手頃 | 易〜中(放射率・視野の理解要) |
| 接触式温度計(熱電対) | ×(接触) | 単発中心 | 手頃 | 易 |
| サーモグラフィ(非接触・面) | ○ | 画像として記録・比較しやすい | 高価(本格向け) | 中(放射率設定・視野の理解要) |
| ハンディ振動計 | ×(センサー当接) | 一部ロガー付き機種あり | 中位 | 中(評価ゾーンの理解要) |
| 非接触回転計(レーザー式) | ○ | 単発表示が基本 | 手頃 | 易(反射マーク貼付が必要) |
| データロガー騒音計 | △(空間測定) | 記録・トレンド向き | 中位〜高価 | 中(クラスの理解要) |
| 絶縁抵抗計(メガー) | ×(接触・停電要) | 単発測定中心 | 高価 | 中〜難(停電作業・CAT理解要) |
| クランプメーター | ○(導体を挟む) | 一部ロガー付き機種あり | 中位 | 易〜中(CAT理解要) |
判定例:早見表をこう使う
判定例① モーターの表面が以前より熱い気がする
早見表①で「熱い」の行を確認すると、疑うべき原因は過負荷・絶縁劣化・接続部の緩み・潤滑不足・冷却不良です。まず放射温度計かサーモグラフィで非接触のまま表面をスクリーニングし、周囲より温度が高い箇所(ΔTがある箇所)を熱電対の接触式温度計で確定値を測ります。「以前より熱い」という感覚は1回の測定では判断できず、同じ箇所を同条件で定期的に測って傾向を見ることで初めて分かります。
判定例② ポンプの振動が増えた気がする
早見表①で「振動する」の行を確認すると、疑うべき原因は軸受摩耗・アンバランス・芯ずれ・ゆるみ・共振です。ハンディ振動計を軸受箱など非回転部に当てて広帯域振動速度(mm/s)を測定し、評価ゾーン(後述)と照合しながら同じ測定点・同条件で継続的に記録します。「増えた気がする」という主観を、同条件で定期的に測って傾向を見る運用に置き換えることが本質です。
メナどちらの判定例も、いきなり測定器を選ぶのではなく、早見表①で「疑うべき原因」を先に絞り込んでから測定方法を決めています。
異常5種を1つずつ確認する
「熱い」
症状の見え方: 触れる/近づくと熱を感じる、サーモグラフィでは周囲と発色が違って見える
疑うべき原因: 過負荷、絶縁劣化、接続部の緩み(接触抵抗増加)、潤滑不足による摩擦熱、冷却不良
測定方法: 非接触で面をスクリーニング→ΔTのある箇所を接触式で確定値確認
測定器カテゴリ: サーモグラフィ・放射温度計(非接触)、熱電対温度計(接触)
向かない場合: 光沢のある金属面は放射率が低く非接触では読み取りにくく、接触式を優先します。
「振動する」
症状の見え方: 手で触れて震えが分かる、異音を伴うこともある
疑うべき原因: 軸受摩耗、アンバランス、芯ずれ(ミスアライメント)、ゆるみ、共振
測定方法: 非回転部で広帯域振動速度(mm/s rms)を測定し、評価ゾーンと比較
測定器カテゴリ: ハンディ振動計
向かない場合: 振動源が特定できない大型設備では専門業者による精密診断が先です。
「回転がおかしい」
症状の見え方: 回転数が設定値と合わない感覚がある、ベルトの滑る音がする
疑うべき原因: 回転数の設定値からのずれ、ベルト滑り、負荷変動、制御異常
測定方法: 対象物に反射マークを貼り、非接触式レーザーで回転数(r/min)を測定
測定器カテゴリ: 非接触回転計(レーザー式タコメーター)
向かない場合: 反射マークを貼る場所がない微小部品や回転面が隠れた構造では使えません。
「音がおかしい」
症状の見え方: カラカラ・キーキーといった異音、普段と違う音量になった
疑うべき原因: 軸受の初期損傷(高周波成分)、歯車の摩耗、エア漏れ、ゆるみによる異音
測定方法: 可聴音量は騒音計(dB)、軸受初期損傷やエア漏れは超音波を可聴化して検知
測定器カテゴリ: 騒音計、超音波リークディテクタ
向かない場合: 環境音が大きい現場では対象機器だけの音を切り分けにくく、接触式センサーが向く場合があります。
「電気的におかしい」
症状の見え方: 漏電ブレーカーが落ちやすい、一部の相だけ電流が高い
疑うべき原因: 絶縁劣化(漏電)、相間の負荷不平衡、接続部の緩み(過電流)
測定方法: 停電時は絶縁抵抗、稼働中は電流値(相間バランス)をクランプで測定
測定器カテゴリ: 絶縁抵抗計(メガー)、クランプメーター
向かない場合: 停電できない設備の絶縁抵抗そのものは、無理に稼働中測定へ読み替えないでください。



5種とも、症状→原因→測定方法の順で切り分けてから測定器カテゴリを決めています。
測定器が決まった後の「必要性能」
放射温度計・サーモグラフィ:放射率とD:S比
A&D公式の技術資料によれば、放射温度計の測定範囲は対象までの距離(D)と測定範囲の直径(S)の比、D:S比で表されます。D:S=60:1の機種では距離1.5mで直径2.5cm、距離3mで直径5cmの範囲が対象になり、これより対象物が小さいと「視野欠け」が起きます。もう一つの必須設定が放射率で、0〜1の数値をとり対象物の組成・表面状態・色などで変わります(同資料では人の肌がおよそ0.98程度と例示)。設定を誤ると実際とは異なる値が表示されます。
振動計:評価ゾーンとクラス
振動の評価には複数の規格系がありますが、本記事はJIS B 0906(ISO 10816-1相当、機械クラスI〜IVの一般指針)に沿って説明します。附属書Bはクラスを「出力15kW以下のはん用電動機」(クラスI)、「出力15kW〜75kWの電動機」(クラスII)などと定義し、ゾーンA(新設機械が通常収まる範囲)〜ゾーンD(損傷を起こすのに十分厳しい)の4段階で状態を判定します。境界値の説明から、クラスIIはゾーンA上限が振動速度1.12mm/s、ゾーンB上限が2.8mm/sと読み取れますが、附属書B自体が「参考・規定の一部ではなく暫定的に用いる数値」と明記しているため目安として扱ってください。該当クラスは設備仕様書で確認し、より大型の機械向けの別規格系ISO 20816-3とは混同しないでください。
回転計:検出距離と測定範囲
非接触式レーザー回転計は、対象物に反射マーク(反射テープ)を貼り、そこにレーザー光を当てて反射を検出する方式です。市販機の例(ライン精機公式)では検出距離がおよそ50〜1,000mm、測定範囲が毎分6〜99,999.9回転程度とされ、距離と反射マークを貼れる面があるかを事前に確認してください。
騒音計:クラス1とクラス2
リオン(RION)公式によれば、騒音計はJIS C 1509-1:2017でクラス1(精密騒音計)とクラス2(普通騒音計)に分けられ、器差(1kHz)はクラス1が0.7dB・クラス2が1.0dBです。工場設備の巡回点検レベルであればクラス2(現場測定向け)で足りるケースが多いです。
絶縁抵抗計・クランプメーター:定格電圧の区分とCAT
電気設備に関する技術基準を定める省令第58条により、対地電圧150V以下(100/200V)は0.1MΩ以上、150V超300V以下(三相200V)は0.2MΩ以上、300V超(三相400V)は0.4MΩ以上の絶縁抵抗が求められ、電技解釈第14条第二号は絶縁抵抗測定が困難な場合の代替基準として「漏えい電流1mA以下」を挙げています。クランプメーターはFluke公式の解説で固定設備内の機器はCAT III、電源引き込み口はCAT IVの対象とされ、分電盤や工業用設備の計測にはCAT III以上を選ぶのが基本です。電気計測全般はビル保守用電気計測器10選、HIOKI社の計測器はHIOKI特集記事も参考にしてください。



必要性能を知らずに買うと「対象に合わない」「視野欠けで誤読する」といった失敗につながります。商品を選ぶ前にこの5項目を確認しましょう。
症状の種類順に選ぶ測定器
手が届く価格帯から症状の種類順に並べ、本格運用が必要な段階で検討する上位機種は「本格運用向け」と明記しました。
熱(非接触)|FLUKE(フルーク) 放射温度計 62MAX




「熱い」と感じたら、まずは非接触で広範囲をスクリーニングします。レーザーポイントで狙った1点の表面温度を離れた場所から安全に読み取れます。視野(D:S比)より対象物が小さいと「視野欠け」が起きるため、対象との距離を詰めて使います。


熱(接触)|A&D(エー・アンド・デイ) AD-5601A 熱電対温度計(Kタイプ)


非接触で当たりを付けたあとは接触式で確定値を測ります。熱電対(Kタイプ)を直接当てれば放射率や視野の影響を受けず、非接触→接触の二段構えで誤判定を減らせます。


振動|Wintact デジタル振動計(ハンディ型)




「振動する」の測定は、軸受箱など非回転部にセンサーを当てて広帯域振動速度(mm/s)を読み取ります。ハンディタイプは巡回点検に向き、同じ箇所を同条件で繰り返し測って推移を見るのが基本です。評価ゾーンとの照合は後述の「必要性能」で解説します。


回転|FOCUSMART 非接触式レーザー回転計 FMTDT2234C(本体刻印:DT-2234C+型)




「回転がおかしい」を数値で確認するには、対象物に反射マーク(反射テープ)を貼り、レーザー光で回転数(r/min)を読み取る非接触式が手軽です。触れずに済み安全で、設定回転数からのずれが分かればベルト滑りや制御異常の切り分けが進みます(本体刻印は複数ブランド共通の「DT-2234C+」型)。


音(本格運用向け)|カスタム(CUSTOM) データロガー騒音計 SL-1373SD




「音がおかしい」のうち可聴域の異音量は、騒音計でdB値として記録します。データロガー機能付きなら巡回のたびに手書きせず推移を確認でき、軸受の初期損傷のような高周波の異音は超音波での検出が向いています(本記事では超音波リークディテクタの商品は見送っています)。


電気(絶縁抵抗・本格運用向け)|HIOKI(日置電機) 絶縁抵抗計 IR4053-10


「電気的におかしい」で停電できるなら、絶縁抵抗計(メガー)で絶縁劣化を確認します。使用電圧の区分ごとに求められる絶縁抵抗値の基準があり、感電リスクを伴うため原則は停電状態で測定し、稼働中に確認したい場合は次のクランプメーターによる電流測定に切り替えます。


熱(画像・本格運用向け)|HIKMICRO Mini2 V2 サーモグラフィーカメラ(スマホ接続型)


点ではなく面で温度差を捉えたい場合は、放射温度計より一段本格的なサーモグラフィが向きます。画面全体を色分け表示でき、点測定では見落としやすい発熱に気付きやすくなります。複数機種の比較・選び方は既存記事のスマホ用サーモグラフィ比較記事に譲り、放射温度計で当たりを付けてから検討する段階で使います。


電気(クランプ・稼働中向け)|FLUKE(フルーク) AC400A クランプメーター(FLUKE-302+)


稼働を止められない設備の「電気的におかしい」には、導体を挟むだけで非接触的に電流値を読めるクランプメーターが向きます。相間の電流バランスを見れば負荷の偏りや過電流の兆候を稼働中のまま確認でき、測定カテゴリ(CAT)の考え方や機種比較は既存記事のクランプメーター比較記事に譲ります。


専門知識側:単発測定より傾向管理
単発の測定値だけでは「異常かどうか」を正しく判断できません。東京ビルメンテナンス協会の資料には、蛍光灯カバーをサーモグラフィで順に測定したところ1つだけ他より20℃も高い温度を示し、外すと中の安定器が焼損しており放射温度計で直接測ると90℃もあった、という事例が紹介されています。「他との比較(ΔT)でスクリーニングし、怪しい箇所を確定値で確認する」二段構えの有効性を示す例です。
振動計も同じで、評価ゾーン(前述のゾーンA〜D)と照合しながら同じ測定点・同条件で継続的に記録することで「以前と比べて悪化しているか」が初めて分かります。単発測定より傾向管理が予防保全の基本姿勢です。



壊れる前に見つける鍵は、高性能な測定器より、同条件で定期的に測る運用を続けられるかです。
測定器を買う前に
保全業者への依頼・メーカー点検・設備更新のほうが合理的な場合
正直に書くと、測定器を自前で揃えることが常に最適とは限りません。測定頻度がごく少ない、対象設備の台数が少ない、精密な振動診断・電気設備の法定点検のように専門資格や高精度な機材が前提になる測定なら、保全業者への依頼やメーカーの定期点検のほうが結果的に安く判断の精度も高くなります。測定を重ねても改善の見込みがなく部品交換や修理を繰り返している設備であれば、測定器を追加するより設備そのものの更新を検討する段階です。測定器は「異常を早く見つける」ための道具であって、老朽化した設備を延命させる道具ではありません。



そもそも自前で測る必要があるのか、一度立ち止まって考える価値があります。
よくある質問
測定器は1つずつ買い足すべきですか、まとめて揃えるべきですか?
早見表①で手元の設備に多い症状を確認し、優先度の高い1〜2種類から揃えるのが現実的です。熱・電気は非接触の放射温度計とクランプメーターから始めやすい特徴があります。
数値の目安はどこまで信用してよいですか?
本記事の数値はメーカー公式資料・JIS規格・行政資料など一次資料からの引用に限定しています。規格や機種で適用範囲・条件が異なるため、実際の判定は対象設備の仕様書と照合してください。
非接触の測定器だけで異常は分かりますか?
非接触測定は広範囲のスクリーニングに向きますが、確定値の測定や停電時の絶縁抵抗測定のように接触式でないと測れない項目もあり、非接触→接触の二段構えが基本です。
注意点
回転体やベルトの近くで振動計・回転計を使う際は、頭髪や袖が巻き込まれないよう作業服装に注意してください。労働局の資料でも、機械の原動機・回転軸・歯車・プーリー・ベルト等の危険なおそれのある部分には覆いや囲いを設けることが定められており、非常停止装置がすぐ使える状態かも確認してから測定に入ってください。
活線状態での電気測定は、測定カテゴリ(CAT)に応じた保護具の着用が前提です。保護具の選び方は既存記事の絶縁手袋・検電器の選び方と非接触検電器の比較記事に譲ります。絶縁抵抗測定や漏れ電流測定は、電技解釈第14条第二号が「絶縁抵抗測定が困難な場合」の例外として書かれている通り、原則停電して行うのが安全上の基本です。高温部に近づく際はやけどに注意し、厚生労働省のガイドラインも踏まえ、騒音計で常時85dB以上が確認された環境では聴覚保護具の着用を検討してください。一度失われた聴力は元に戻りません。
まとめ
「機械の異常をどう発見するか」は、熱い・振動する・回転がおかしい・音がおかしい・電気的におかしいのどれに当てはまるかを早見表①で切り分けることから始まります。測定器が決まったら必要性能を確認してから選び、何より同条件で定期的に測る運用に乗せることが近道です。

