この記事は、裸圧着端子(R形)などで14sq以上の太い電線を確実に圧着したい方、これから油圧圧着工具を1台選ぼうとしている電気工事士の方向けに書いています。
機種の性能を並べて比較するのではなく、ご自身がどんな電線サイズ・どんな現場条件で圧着するかを先に決め、そこから必要なスペックを導き、該当する機種とダイスの適合を判定できるようにすることが、この記事の目的です。14sq未満の棒端子・フェルール(エンドスリーブ)の圧着は対象外とし、その用途はエンドスリーブ圧着工具の記事に委ねます。
油圧圧着工具は「機種」より先に、ご自身の作業条件を決める
油圧圧着工具は、圧着範囲(mm²)・油圧か倍力式(非油圧)か・ダイスの対応サイズ・手動か充電式かといったスペックの組み合わせで性能が決まります。どの機種がいいかを先に探すと、スペックの違いが多すぎて選びにくくなります。先に「ご自身がどの端子サイズを、どんな現場で、何本くらい圧着するか」という作業条件を決めてから、必要なスペックを満たす機種とダイスを絞り込むほうが、遠回りになりません。
結論早見表|読者の条件→必要スペック→該当機種
ご自身の条件に近い行を見つければ、必要なスペックと該当する機種の候補がわかります。各機種・各スペックの詳しい根拠は、このあとの解説と商品カードの節にまとめています。
| 読者の条件 | 必要スペック | 該当機種 |
|---|---|---|
| 裸圧着端子(R形)14〜60sqが主、単発作業 | 手動油圧(圧着範囲14-60mm²、ダイス複数対応) | IZUMI 9H-60/ロブテックス AKH60N |
| 盤内・狭所で14〜38sq、油圧工具を持ち込めない/軽量優先 | 倍力式手動(非油圧、レバー比増幅) | ロブテックス AK38A |
| 100sq超、または本数が多く繰り返し作業(太陽光・EV充電設備等) | 充電式油圧(バッテリー駆動、ワンタッチ圧着) | IZUMI REC-Li150S1(〜150mm²)/カクタス EV-325DL(150〜325mm²) |
| ダイス形式の確認(刻印とJIS規格の対応) | ダイスに刻印された数字=適用電線の呼び断面積(mm²)、工具本体の適合表と照合 | 下の「ダイスの刻印とJIS規格の対応」で解説 |
早見表の読み方|判定の具体例3つ
早見表を実際にどう使うか、3つの条件で判定の流れを解いてみます。
例1: 分電盤の改修で、14〜38sqの裸端子を数本だけ圧着したい
単発かつ38sq以下で収まるなら、必ずしも油圧工具が必要というわけではありません。早見表の2行目に当てはまり、倍力式で軽量なロブテックス AK38A(使用範囲14・22・38mm²)が候補になります。油圧工具を現場に持ち込みにくい盤内作業にも向きます。
例2: 60sqまでの裸端子を日常的に複数本圧着する
60sqまでの範囲を安定して圧着したい場合は、早見表の1行目の手動油圧工具が候補です。IZUMI 9H-60(適用範囲14〜60mm²)、またはロブテックス AKH60N(圧着範囲14・22・38・60mm²)のいずれも、標準ダイスで14〜60mm²の範囲をカバーします。
例3: 太陽光設備の増設で、150sqを超える太物を繰り返し圧着する
150sqを超える太物かつ繰り返し作業が想定されるなら、早見表の3行目のうち上限の高い機種が必要です。カクタス EV-325DL(圧着範囲150〜325mm²)が該当し、14〜150mm²まではIZUMI REC-Li150S1で分担する、という判定になります。
スペックは何のためにあるのか|スペック→用途の変換
早見表の「必要スペック」欄が、具体的にどういう場面でどう効くのかを、スペック軸ごとに解説します。スペックを並べて覚えるのではなく、ご自身の作業条件に当てはめて読んでください。
① 油圧式か、倍力式(非油圧)か
60sq程度までを安定して圧着する標準的な構成は手動油圧式です。一方、ロブテックスAK38Aのような倍力式(非油圧)は、レバー比を増幅する機構で油圧機構を持たず、38mm²までの端子を軽量な本体(質量670g)で圧着できます。油圧工具を現場に持ち込めない狭所・高所作業で、38mm²までなら倍力式が代替になる、という関係です。それを超えるサイズを圧着したい場合は、倍力式では対応できず油圧式が必須になります。
② 圧着範囲(mm²)
圧着範囲は、その機種(とセットのダイス)で扱える電線の呼び断面積の範囲です。IZUMI 9H-60とロブテックス AKH60Nは14〜60mm²、IZUMI REC-Li150S1は14〜150mm²、カクタス EV-325DLは150〜325mm²までをカバーします。ご自身が圧着する最大サイズより範囲が狭い機種を選ぶと、そもそも圧着自体ができません。
③ ダイスの刻印とJIS規格の対応
端子側の規格はJIS C 2805(銅線用圧着端子)で、この規格に基づく呼び方は、記号の第1項の数字が適用電線の呼び断面積を、第2項の数字が使用ねじ径を表す、という構造になっています(具体的な寸法値は規格書側の定義のため、本記事では呼び方の構造のみを扱います)。
一方、工具側の規格はJIS C 9711(圧着工具)です。ダイスに刻印されている14・22・38・60といった数字は、このJIS C 9711の刻印そのものではなく、工具メーカー(IZUMI)が独自に表示している圧着範囲の数値ですが、端子側のJIS C 2805の呼び方(第1項=断面積mm²)と同じ数値体系で揃えられています。そのため現場では、「ダイスの刻印数字」と「端子のR呼び方の最初の数字」を同じ数値で突き合わせれば適合する、という確認のしかたができます。ダイスそのものの適合可否は、IZUMIやロブテックスなど工具メーカー公式の適合表の範囲で確認してください。
④ 充電式か、手動か
手動油圧式はレバー操作で圧着する標準的な構成です。IZUMI REC-Li150S1やカクタス EV-325DLのような充電式(バッテリー駆動)は、ワンタッチで圧着でき、太陽光設備やEV充電設備のように本数が多く繰り返し作業が発生する現場で、1本あたりの操作負担を減らせます。単発・少数の作業であれば、手動油圧式で十分というケースが多くなります。
⑤ 本体サイズ・質量(携行性)
IZUMI 9H-60は全長364mm・質量2.1kg、ロブテックス AKH60Nは全長360mm・質量2kgと、60mm²までの手動油圧機はいずれも2kg前後です。これに対しカクタスEV-325DLは質量7.2kg(バッテリパック・ダイス含む)と重く、325mm²までの大電流対応と携行性はトレードオフになります。頻繁に持ち運ぶ現場かどうかも、機種選定の条件に含めてください。
条件別、該当する油圧圧着工具
早見表とスペック解説を踏まえ、判定の流れ順(14〜60mm²の手動油圧→軽量な倍力式→充電式の太物対応→併用品)で8点を紹介します。
マクセルイズミ(IZUMI/旧泉精器製作所) 手動油圧式工具 標準ダイス付 9H-60
メナ14〜60mm²の裸端子を一通りカバーしたい、標準的な手動油圧機の判定です。
14〜60mm²の裸圧着端子を単発〜日常的に圧着するなら、まず検討される手動油圧式です。


公式仕様では公称出力54kN(5.5tf)、適用範囲14〜60mm²、全長364mm・質量2.1kg、標準ダイスはオス14-38・60/メス14・22・38・60で、JIS C 9711に適合しています。


ロブテックス(LOBSTER/エビ印/LOBTEX) 手動油圧式圧着工具 AKH60N



同じ14〜60mm²の範囲でも、全長・質量のわずかな違いが判定材料になります。
IZUMI 9H-60と同じ14〜60mm²の範囲をカバーする、もう1つの手動油圧機です。


圧着範囲は14・22・38・60mm²、出力39.2kN、全長360mm、質量2kgで、JIS C 9711に適合しています。全長・質量とも9H-60よりわずかに小さく、同じ範囲内で比較する場合の選択肢になります。


ロブテックス(LOBSTER/エビ印/LOBTEX) 倍力式圧着工具 AK38A



油圧工具を持ち込めない狭所・高所作業では、油圧なしで38mm²まで届く軽さが判定基準になります。
盤内・狭所など油圧工具を持ち込みにくい現場で、38mm²までの端子を圧着したい場合の機種です。


使用範囲は14・22・38mm²、全長335mm、質量670gと、手動油圧機よりかなり軽量で、JIS C 9711に適合しています。油圧機構を持たない倍力式(レバー比増幅)構造のため、38mm²を超える端子には対応できません。


マクセルイズミ(IZUMI) 充電油圧式圧着工具 REC-Li150S1





太陽光やEV充電設備のように本数が多い現場では、充電式のワンタッチ圧着が判定基準になります。
14〜150mm²の範囲を、本数が多く繰り返し作業が発生する現場で圧着したい場合の充電式油圧機です。


公式仕様では公称出力88kN、圧着範囲14〜150mm²、電動機14.4V DCモータ、外形寸法337×273×84mm(バッテリ含む)・質量3.3kg(ダイス・バッテリ含む)で、JIS C 9711に適合しています。


カクタス(CACTUS) 18V電動油圧式圧着工具 クリンプボーイ EV-325DL 標準セット



150mm²を超える太物の繰り返し圧着は、この機種まで上限が上がらないと対応できません。
150〜325mm²という、本記事で紹介する機種の中で最も太い電線を圧着したい場合の充電式油圧機です。


公式仕様では定格出力185kN、圧着範囲150〜325mm²、外形寸法350(長さ)×240(高さ)×93(幅)mm、質量7.2kg(バッテリパック・ダイス含む)で、18V/14.4Vバッテリーに互換性があります。質量が重く携行性は他機種より劣るため、太物を繰り返し圧着する現場向けの機種です。


ニチフ端子工業(Nichifu) 銅線用裸圧着端子(R形)丸形 R22-14 穴径15mm(50個入)



太物側の裸端子の実例として、ダイスの刻印数字との突き合わせを確認する際の併用品です。
裸圧着端子(R形)丸形R22-14(穴径15mm、50個入)は、JIS C 2805に準拠した14〜60mm²帯の裸端子の実例です。本記事で解説した「ダイスの刻印数字と端子のR呼び方の最初の数字を突き合わせる」確認を、実際の端子で行う際の併用品になります。


ニチフ端子工業(Nichifu) 絶縁被覆付圧着端子(R形)丸形 TMEV2-3-BLU(100個入)



絶縁被覆付きの端子も、同じR形のダイスで圧着できることの実例です。
絶縁被覆付圧着端子(R形)丸形TMEV2-3-BLU(100個入)は、絶縁被覆構造(R形+カラースリーブ)を持つ端子です。裸端子と同じR形のダイスで圧着できる点を確認する際の併用品として紹介します。
マクセルイズミ(IZUMI/旧泉精器製作所) 9H-60用メスダイス 38





ダイスは消耗品で、サイズごとに交換できることの実例です。
IZUMI 9H-60用メスダイスは、交換用の補修ダイスです。
公式のダイス適合表では「60系」ダイスとして9H-60・9H-60H・9H-60L・9H-60HRなどへの適合が明記されており、本体を買い替えずにダイスだけをサイズに応じて交換できることの実例になります。
買う前に確認しておきたいこと
本記事で紹介した機種のうち、IZUMI 9H-60・ロブテックス AKH60N・ロブテックスAK38A・IZUMI REC-Li150S1は、公式または販売ページでJIS C 9711(圧着工具)への適合が明記されていることを確認しています。購入前には、本体がJIS C 9711に適合しているかどうかをあわせて確認してください。
また、ダイスを単体で追加購入する場合は、工具メーカー公式の適合表(機種とダイスの組み合わせ)を必ず確認してください。ダイスの刻印数字が端子のR呼び方の最初の数字と一致していても、工具本体側がそのダイスに対応していなければ使用できません。
よくある質問
油圧式と倍力式(非油圧)、どちらを選べばいいですか?
38mm²までで油圧工具を現場に持ち込みにくい場合は倍力式が候補になります。38mm²を超えるサイズを圧着する場合は、倍力式では対応できず油圧式が必須です。
ダイスの刻印の数字は何を表していますか?
工具メーカーが独自に表示している圧着範囲の数値ですが、端子側のJIS C 2805の呼び方(第1項=断面積mm²)と同じ数値体系で揃えられています。ダイスの刻印数字と端子のR呼び方の最初の数字を突き合わせて確認してください。
100sqを超える電線を圧着したい場合、どの機種を検討すればよいですか?
150mm²まではIZUMI REC-Li150S1、150〜325mm²はカクタス EV-325DLが候補です。繰り返し作業が多い現場では、充電式のワンタッチ圧着が1本あたりの負担を減らせます。
絶縁被覆付きの端子も同じダイスで圧着できますか?
本記事で紹介したTMEV2-3-BLUのような絶縁被覆付きR形端子は、裸端子と同じR形のダイスで圧着できます。
まとめ
油圧圧着工具を選ぶときは、まずご自身が圧着する電線サイズ(mm²)・現場条件(狭所か繰り返し作業か)を決め、そこから必要なスペック(油圧か倍力式か・圧着範囲・ダイスの刻印とJIS規格の対応・充電式か手動か)を導き、該当する機種を判定する、という順番で考えてみてください。14sq未満の棒端子・エンドスリーブの圧着を検討している場合は、関連記事もあわせてご確認ください。

