メナどうも、ハイブリッドエンジニアのメナ(@menachite)です。「接着剤 おすすめ」で検索するとカタログの「せん断強度20MPa」のような数値をよく見かけますが、この数値だけを見て選ぶと痛い目を見ることがあります。今回は、接着剤のカタログに載る強度表示の正しい読み方を掘り下げます。
結論から言うと、接着剤の強度表示には「せん断」「剥離」「引張」という力の向きが違う複数の測定方法があり、カタログに載っている数値の多くは「せん断強度」だけです。ところが実際の使用では、力が接着面を横にスライドさせる方向(せん断)ではなく、端からめくり上げるように働く方向(剥離)にかかることが少なくありません。同じ接着剤でも、力のかかる向きが変われば実用上の強さの印象は大きく変わります。
結論:せん断・剥離・引張 早見表
個別の解説に入る前に、まず3つの力の向きと、それぞれがカタログでどう扱われているかを早見表にまとめました。単位が「MPa」と「N/mm」で違う点に注目してください。この単位の違いこそが、次章で説明する「なぜ剥離強度はほとんどカタログに載らないのか」の手がかりになります。
| 力の種類 | 力の向き | 関連JIS規格 | 単位 | カタログでの扱い |
|---|---|---|---|---|
| せん断 (シェア) | 接着面に平行にスライドさせる力 | JIS K 6850 | MPa(N/mm²、面積あたり) | 最も一般的に記載される数値 |
| 剥離 (ピール) | 接着端から垂直にめくり上げる力 | JIS K 6854 | N/mm(幅あたり。規格上は幅25mm試験片のはく離力Nで、カタログではN/mmやN/25mmに換算表記) | ほぼ記載されない |
| 引張 (テンシル) | 接着面に垂直にまっすぐ引き離す力 | (参考、JIS K 6849等) | MPa | 突き合わせ接着など特殊な形状の指標 |
専門知識解説:JIS規格が測っているのは「力の向き」
「せん断強度」「剥離強度」という言葉はよく見ますが、これらはJISで規格化された試験方法によって、それぞれ別の力の向きを測定しています。
せん断(JIS K 6850)は接着面全体で受け止める力
JIS K 6850(接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)は、標準試験片の接着部分と主軸に平行な引張力を被着材に与え、重ね合わせ部分にせん断方向の負荷をかけて測定します。標準試験片は重ね合わせ幅25mm・重ね合わせ長さ12.5mm±0.25mmで、65秒±20秒で破断する速度に調整して試験します。ポイントは、力が接着面と平行にかかるため、接着した面全体で力を分担できることです。
剥離(JIS K 6854)は接着端の一点に集中する力
JIS K 6854-2(接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離)は、一方がたわみ性、他方が剛性の2枚の被着材からなる接着組立物を、180度の角度でめくるように引きはがして測定します(試験片幅25.0mm±0.5mm、引張速度は毎分100mm±10mmが目安)。他にT形はく離(K 6854-3)や浮動ローラー法(K 6854-4)もあり、被着材の組合せによって試験法が変わります。せん断と違い、剥離は「めくれていく先端」だけに力が集中する点が本質的に異なります。接着の設計に関する解説でも、接着部はせん断力には強い一方、剥離力や衝撃力のような局部荷重には弱く、応力が接着端部に集中して疲労・衝撃による早期破壊につながりうることが指摘されています。
引張は「まっすぐ引きはがす」めずらしい形(参考)
引張(突き合わせ接着を真上に引き離す力)は、部材同士を面で重ねず端と端を突き合わせる接合で測定される力です。接着面が小さくなりがちで、常に軸をまっすぐ保つ構造にするのが難しいため、こうした突き合わせ接着そのものが極力避けるべき設計とされています。本記事で扱う一般的なDIY・補修用途では、まず「せん断」と「剥離」の違いを押さえておけば十分です。



規格の話はここまでです。ここからは、この2つの規格の違いを踏まえて、実際にカタログの数値をどう読めばいいかという話に移ります。
だから一般ユーザーは「カタログのMPa」をこう読む
同じ製品でも「せん断の数値」と「剥離の数値」は別物
具体例として、工業用2液性アクリル系接着剤「メタルロックY620」のメーカー公表値を見てみます。引張りせん断接着強さは21.1MPa、T型はく離接着強さは4.2N/mmと公表されています。単位がMPa(面積あたりの力)とN/mm(幅あたりの力)で違うため、この2つの数値をそのまま割り算して「何分の一に落ちる」と断定することはできません。しかし単位が違うこと自体が重要なヒントです。せん断は面全体で力を受け止める前提の指標、剥離は接着端という線状の範囲でしか力を受け止められない前提の指標であり、測り方の土台から違います。カタログに載っている「〇〇MPa」は基本的にせん断の数値であり、剥離方向の力に対する強さを直接は示していない、という前提でカタログを読むのが安全です。
実践:剥離になる設計を避ける3つの手
接着の設計解説でも、剥離のような局部荷重を避けるには接着部に局部荷重が加わらない構造にすることが基本とされ、具体策として角部への面取り・R加工による応力集中の低減が挙げられています。これをDIY・補修の現場に落とし込むと、次の3つが実践的です。
①力の向きに対して直交する重ね合わせ幅を広げる:JIS K 6850の試験原理は「面全体で力を受け止める」ことが前提のため、同じ強さの接着剤でも接着される面積(特に力の向きと直交する幅)を広げれば、その面が負担できる総荷重は増えます。②接着する部材の角を面取り・R加工する:角が尖ったままだと、その一点に応力が集中して剥離のきっかけになりやすいため、可能であれば角を落としてから接着します。③剥離や衝撃が避けられない箇所には弾性接着剤に切り替える:硬く高強度なだけの接着剤で固定するより、変形について行ける柔軟な接着剤のほうが、めくれの力や振動に対して結果的に剥がれにくくなります。
実践例:弾性接着剤という選択肢
上記③「弾性接着剤に切替」の具体例として、在庫があり手に取りやすいサイズの製品を1点紹介します。
セメダイン 弾性接着剤《PM165》速硬化・多用途タイプ ノンプライマー 333ml(RE-020)



剥離方向の力や振動・衝撃がかかりそうな接合部には、硬く高強度なだけの接着剤より、柔軟に動きを吸収できる弾性接着剤のほうが「剥がれにくい」実践的な選択です。
この製品は一液型のエポキシ変成シリコーン樹脂系弾性接着剤です。硬化後に硬く脆くなる一般的なエポキシ系とは異なり、ゴム状の柔軟性を持ったまま強度を発揮するタイプで、コンクリート・金属・木材など幅広い被着材に対応します。


本記事の結論と対応させると、この製品は「剥離になる設計を避ける実践」のうち③弾性接着剤に切替に当たる選択肢です。硬い接着剤で面を固定するより、多少動きがある箇所や衝撃を受けやすい箇所では、変形について行ける弾性接着剤のほうが結果的に長持ちします。なお本製品自体のせん断・剥離強度の公開数値は確認できていないため、数値の主張はせず「柔軟性を活かす用途」としての位置づけで紹介しています。
一液タイプでA剤・B剤の計量・混合が不要な点も、2液性のメタルロックY620のような業務用製品と比べて扱いやすい違いです。使用前には必ず製品ラベルとSDSで対応被着材・硬化時間・使用上の注意を確認してください。


接着作業に便利なアクセサリー
接着剤そのものだけでなく、作業を安全・確実に進めるための小物もあわせて揃えておくと失敗が減ります。
保護具(手袋・保護メガネ)
有機溶剤や刺激性成分を含む接着剤は、皮膚や目への付着を避けるために使い捨て手袋と保護メガネを着用してから作業するのが基本です。特に硬化前の液状の状態は付着に気づきにくいため、面積の広い作業ほど装備を先に整えてから始めてください。
計量カップ・ヘラ
メタルロックY620のような2液性の接着剤は、A剤とB剤を規定の比率(多くは1:1)で正確に計量・混合しないと硬化不良の原因になります。使い捨ての計量カップとヘラを用意しておくと、毎回の計量精度が安定します。
マスキングテープ
接着面の周囲にマスキングテープを貼ってから作業すると、はみ出した接着剤が周囲の見た目を損なうのを防げます。剥離のきっかけになりやすい角の面取り位置を先にテープで示しておく使い方もできます。



ここからは、よくある質問にまとめて答えていきます。
よくある質問
Q. せん断強度が高い接着剤を選べば安心ですか?
A. 接合部にかかる力がせん断方向中心であれば有力な指標になりますが、実際の接合部では剥離方向の力が混ざることが多いため、せん断強度の数値だけで安心せず、本記事の3つの実践(重ね幅・面取り・弾性接着剤)もあわせて検討してください。
Q. 剥離強度もカタログに書いてあることはありますか?
A. 工業用途向けの技術資料(TDS)には剥離強度(N/mm)が併記されていることがあります。一般消費者向けのパッケージ表示では省略されがちなので、精密な設計が必要な場合はメーカーのTDS・SDSを確認するのが確実です。
Q. 引張強度と接着強度は同じ意味ですか?
A. 「接着強度」は、せん断・剥離・引張などの測定方法をまとめて指す総称として使われることが多い言葉です。本記事のように、どの向きの力を測った数値なのかを区別して読むことが大切です。
使用時の注意点
2液性・弾性を問わず、多くの接着剤には有機溶剤や刺激性の成分が含まれます。窓を開けるなどして換気の良い場所で作業し、密閉された狭い空間での使用は避けてください。皮膚や目に付着すると刺激やかぶれの原因になるため、手袋・保護メガネを着用し、直接触れた場合はすぐに洗い流してください。使用前には必ず製品ラベルとSDS(安全データシート)の注意事項を確認し、子供の手の届かない場所で保管してください。



カタログの「〇〇MPa」は多くの場合せん断強度で、剥離方向の強さを直接は示していません。重ね幅を広げる・角を面取りする・剥離が避けられない箇所は弾性接着剤に切り替える、この3つを覚えておくだけで接合部の失敗はぐっと減らせます。
まとめ
接着剤のカタログに載る強度表示は、力の向きによって「せん断(JIS K 6850)」「剥離(JIS K 6854)」「引張」に分かれ、単位も測り方も異なります。一般に載っているのはせん断強度が中心で、剥離方向の強さを直接は示していません。実際の接合部では、重ね合わせ幅を広げる、角を面取り・R加工する、剥離や衝撃が避けられない箇所は弾性接着剤に切り替える、という3つの実践で剥離に弱い設計を避けることができます。